こんにちは、ジャスミンツアーズ松本です。2022年3月15~25日に、2年半ぶりにスリランカに行ってきました。
コロナ前と変わったこと、変わっていないこと、お話したいことはたくさんありますが、まずは今この話題を。
スリランカのニュースが日本で報道されることは極めて少ないですが、良くないニュースを目にした方も多いかと思います。とはいえこの手のニュースは一部の悪い情報が拡大して解釈されがちでもあり、私が実際に行って感じたことともやや乖離しています。現地に住む知人の所感も踏まえながら、「スリランカの経済危機と、それが現地に住む人、および旅行者にどのような影響を与えているか」を、お伝えしたいと思います。
目次
スリランカの経済危機
なぜ経済危機的な状況に陥っているのか?
一言でいうと、外貨不足です。スリランカはアメリカ・日本・中国・インドなどから借り入れを行っていますが、コロナの長引く影響などにより外貨が不足し、ぎりぎりの状況で返済を行ったり、輸入規制が行われています。
外貨不足が起こった理由は大きく2つあります。
①コロナで観光業が停止したこと
ご存じのとおりスリランカは観光立国であり、言い換えればそれ以外の基幹産業を持たないともいえます。2019年のテロで厳しい状況になっていましたが、2020年以降のコロナの影響で観光業は壊滅的な影響を受けました。2021年10月よりワクチン接種者の隔離期間を撤廃しましたが、ロシアとウクライナの戦争の影響もあり、観光入国者数は過去の半分以下にとどまっています。
②海外の出稼ぎ労働者が職を失い、帰国したこと
スリランカからは中東、ヨーロッパ、オセアニアなどの世界各地域に労働者が出稼ぎに行き、彼らからの送金がスリランカにとって貴重な収入源となっていました。コロナで職を失った出稼ぎ労働者が帰国し、国として外貨の流入が減りました。
なお、スリランカの輸出金額第一位は衣料品(紅茶ではなく)であり、コロナがもたらしたアパレル産業の低迷も経済危機につながったと推察します。スリランカ基礎データ(外務省)
経済危機が、具体的にどのような事象につながっているのか?
大きく4つ挙げられます。
①ハイパーインフレ
スリランカルピーの価値は大暴落しています。3月上旬に0.6円弱だったものが、2週間で0.42円に下がりました。
3月にスリランカの空港到着時に日本円からスリランカルピーに両替したのですが、前回渡航時よりも格段に換金されたルピーの金額は増えました。一瞬、不誠実にも”おっ”と思うくらいです。
②モノ不足による日用品の価格高騰
しかし、両替後、スーパーマーケットに行って、全然ラッキーではなかったことを思い知らされます。
為替換算以上に、モノの値段が上がっているのです。コロナ前よりも2割3割増しくらいです。「明日になったらまた金額が変わるかもしれないから」と、ほしいものは今すぐに買うようアドバイスされました。
輸入に頼っている日用品の中で、最も印象的だったのはミルクパウダーです。スリランカのミルクティー、キリテーは生乳ではなくてミルクパウダー(安い)で作るのがきまりです。このミルクパウダーが手に入らず、スーパーでも見当たらず。お店でも、「プレーンティーはあるけど、キリテーはないの、ごめんね」と言われたり。毎日口にするものが手に入らないという深刻な状況でした。
③ディーゼル・ガソリン・プロパンガスのインフラ枯渇
外貨不足はインフラに恐るべき影響を与えています。輸入ができないので、ガソリンスタンドやプロパンガス販売店に長い列ができています。
コロンボ港にタンカーは来ているのに、支払いができずに原油が入ってこないというのです。支払いがされれば入港し、少し行列がゆるむ・・という感じです。
ガスが手に入らないため、かまどを使って煮炊きする家庭もかなり増えているようです(このあたりのスリランカの人々の柔軟性には感服させられます・・)。
輸入に頼っているインフラの枯渇は、観光業にも影響を与えています。
当社の使用する車はガソリン車なので影響はまだ小さかったのですが、ディーゼルは本当に量が少ないようで、ディーゼル車のドライバーは仕事を取れない状況になってきています。
今日は給油できても、明日は在庫がないかもしれないということで、ドライバーもガソリンスタンドの前を通るたびに、在庫があるか確かめ、列が短いところを狙って日に一度、給油していました。この「明日はないかもしれない」という不安感から、皆毎日のように給油を行い、それが待ちの列を長くしています。ドライバーも普段なら考えなくても良いプレッシャーと常に戦っているようで、気の毒でした。
(4月21日追記)
ガソリンもいよいよ品薄になったようです。ドライバーは、ホテルにお客様をお送りした後、車を置いて自分はバスで移動するなど、涙ぐましい努力をしているようです。あの手この手で何とかガソリンを見つけようとしています。
④停電
暑いスリランカでは、停電は健康にも影響を及ぼします。
もともとスリランカ、水力発電・石炭火力発電・石油火力発電で、およそ1:1:1の割合で電力をまかなっています。
雨季と乾季があるため、水力発電はシーズンによる供給量が不安定で、例年3~4月は最も雨が少ない時期です。特に今年は降雨量が少なく、必然火力発電に頼る割合が高まっているのですが、外貨不足で石炭・原油の輸入が滞っているため、停電せざるを得なくなっています。
私が行ったときは3~7時間でしたが、帰国後、8時間、10時間、13時間など、スマホの充電もままならないほど長時間の停電(実際には2~3回に分けて停電となりますが)となっていました。
前日の夜にエリア別の停電時間が知らされるため、それに合わせて翌日の家事や仕事の予定を調整するそうです。
住む人はどのような影響を受けているか?
停電の影響が最も大きいと思います。エアコンのないお家もありますが、ファン(扇風機)が止まるのが一番困るそうです。スリランカは3~4月が最も暑い時期ですが(日本人の私からすればいつも暑いですが、季節はあるらしい)、ファンがないと横になっていても休んだ気にならないと言っていました。熱中症の危険もあります。
旅程の最後のほうで知人の家でおかあさんと料理を作りましたが、私にとって風もなく薄暗いキッチンはとても火を使った料理ができる状況ではなく、ほどなくダウンして別の場所で休ませてもらいました。(おかあさんはじっとり汗をかきながらも粘り強く料理を続けていました・・スリランカ女性の忍耐強さよ・・)
観光客はどのような影響を受けるのか?
価格の高騰といえども、物価水準の高い国から来ている私からは、住んでいる人ほど大きく感じるものではありません。(高級ホテルほど価格が上がっているので、そのようなところに泊まりたい方にはかなりの影響があるかもしれませんが・・)
給油もいつもより時間がかかるかもしれませんが、海外からの観光客はある意味スリランカ経済の救世主で、外国人の乗っている車両は優先的に給油をさせてもらえるようでした。
コロンボなど都会のガソリンスタンドは長い列ができていましたが、だいたいの観光地は田舎にあり、そこではすいていることが多かったのであまり心配はしませんでした(ドライバーがうまく調整してくれていたともいえる)。
一部、ガソリンスタンドで並んでいるとき人が亡くなったという報道もありますが、これは極めて限定的な状況で、それだけに気を取られるのは正しくない状況理解です。私が訪れたガソリンスタンドは、「ここにいる誰が悪いわけでもなく、何かができるわけでもないから、お互い様だよね」という雰囲気で、車もバイクもトゥクトゥクも、雑談しながら列が進むのを待っていました。私が好きだったスリランカの人々は、この状況にあっても変わっていないと安心しました。
停電に関しても、観光客への影響は限定的と感じました。
まず、昼間は観光客は外に出ているか、クーラーの効いた車で移動しているため、ほとんど影響を感じませんでした。また、比較的ちゃんとしたホテルであれば、ジェネレーター(発電機)があるため、停電中でもすぐ電気が戻ってきて、お湯も使えます。
滞在中、ジェネレーターのない宿に泊まったときには、宿の人がロウソクを出してくれ、ロウソクの灯で晩ごはんを食べました。これはこれでキャンプ気分で面白かったです。こういうちょっと予想外のハプニングを楽しめる人なら旅行できると思います(もともとスリランカに行きたい人はそういう心の適応力を持っていると勝手に思っています)。
多少の不便はあるものの、気を取られて旅行ができないほどクリティカルな影響はない というのが実際に行った私の結論です。
経済危機から抗議活動へ
不便を強いられているスリランカの人々の怒りの矛先は政府・政治家に向かっています。スリランカの政治家のモラルの低さや一貫性のない政策は、外国人の私から見ても残念なレベルで、今までの不満も含めて、怒りが目に見える形で噴出してきたと受け取っています。「政治家の住むエリアは停電しない」というまことしやかな噂(本当はどうかはわからない)が広まるほどです。
私が帰国してから1週間ですが、各地で政府への抗議活動が行われています。時系列にするとこうです。
- 3/31 コロンボ郊外のゴータバヤ・ラジャパクサ大統領の自宅近くで抗議活動
Protest ongoing near President’s private residence - 4/1 西部州(コロンボ・ニゴンボを含む)で夜間外出禁止令
- 4/2 非常事態宣言発令 (4/6に解除)
- 4/2夜~4/4朝 全島で外出禁止令
- 4/3 Facebook、YouTube、WhatsAppなどSNSがブロック (数時間後に解除)
- 4/4 大統領と首相「以外」の内閣が総辞職
Sri Lankan Cabinet decides to resign; Mahinda Rajapaksa to remain as PM - 4/20 抗議活動で初の死者
外出禁止令中も、車で移動する観光客は外出できたそうです。ただし、バスや電車が止まっているため、公共交通機関を使う旅行者は足止めになりました。
抗議活動への参画の呼びかけがSNSで盛んに行われており、それを阻止するためにSNSがブロックされました。複数の知人はVPNを通して連絡をくれました。
現地の知人複数人に聞きますと、抗議活動についての誘いは来ているものの、たとえ大統領と首相がすげ変わっても外貨不足の状況は解消されない、それよりこれから生きるためにできることを考えないと、と冷静に見ているようです。
長い内戦中も海外からの観光客を受け入れてきたスリランカですし、いま、海外からのお客さんは何よりありがたい存在です。そのためよほどの無茶をしない限り観光客が危ない目に合うとは考えにくく、観光地のような人の少ない場所であれば抗議活動も少ないです。ただ大変残念ながら、やはり世情不安の中で旅行を心から楽しむのは難しいですね。
今の状況で、スリランカに行ける?行く人に伝えたいこと
コロナに関しては別記事で書きますが、個人的にはあまり考慮されなくてもよろしいかと思います。
ただこの不安定な状況の中、旅行者としてはあえていま行かない判断が賢明です。現状がコロナのように長期化するとも考えておらず、少しの間、落ち着くまでに様子を見ることをおすすめします。
ただ、この状況でも行きたい人、行かなければならない人もいらっしゃるかと思います。その場合、ご家族やお知り合い、ないしは旅行会社の信頼できる人と必ず行動を共にするようにしてください。
再開に向けて動き出していますが、この状況なのでもう少し待つことにしました。
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